「就職・転職活動で半導体製造装置メーカーに興味を持ったけど、どういう業界なのかイメージできない」
「半導体製造装置業界って聞いたことのない会社ばかりで良く分からない」
「半導体、半導体製造装置ってそもそも何なの?」
このような疑問に対して、半導体製造装置メーカーの現役エンジニアがわかりやすく解説します。
半導体製造装置について、予備知識がない人でもイメージできるよう”ゼロ”から説明します。
また、半導体製造装置メーカーの現役エンジニアからしか聞けない実体験も交えて解説します。
@電気工学
半導体製造装置はいわゆる裏方の業界です。
私も学生のときは、何をやっているのか全く知らなかったです。四季報を読むとなぜか年収が高い、その程度の認識でした。
そもそも半導体って何?
半導体について完璧に理解しようとすると、大学レベルの講義内容になってしまうので、ここでは初心者の方にもイメージできるよう嚙み砕いて説明します。
半導体とは?(学問)
半導体とは、電気を流す「導体」と電気を流さない「絶縁体」の中間の性質を持った物質のことです。
- 導体:金や銅のような電気を流す物質のこと
- 絶縁体:ゴムのような電気を全く流さない物質のこと
そして、半導体は”電気を流す” or ”電気を流さない”をコントロールすることができます。
”電気を流す”か”電気を流さない”かを自由に選択できるということです。
半導体が社会に必要とされる理由
メモリーとは記憶装置のことで、データの記録を行うことができるものです。
パソコンやスマートフォンの内部にもこのメモリーが多用されています。
半導体がメモリーになる理由を説明します。
半導体は以下の2つの状態を取ることができます。
- 電気を流す(導体の性質):ON状態
- 電気を流さない(絶縁体の性質):OFF状態
そして”ON状態”と”OFF状態”を自由に切り替えることが可能です。
”ON状態”と”OFF状態”の切り替えは電圧で実施します。
半導体に電圧を掛けると”ON状態”になります。
反対に半導体に電圧を掛けることを止めると”OFF状態”に変化します。
- 電圧を掛ける
→ 電気を流す(導体の性質):ON状態 - 電圧を掛けない
→ 電気を流さない(絶縁体の性質):OFF状態
例えば、AとBの2個の半導体があるとします。
以下の通り、状態の組み合わせは4種類になります。
半導体Aの状態 | 半導体Bの状態 | 情報 |
---|---|---|
ON | ON | りんご |
ON | OFF | みかん |
OFF | ON | いちご |
OFF | OFF | バナナ |
これにより、4種類の情報を記憶できるメモリーが完成します。
”みかん”の情報をメモリーに記録させる場合、半導体Aに電圧を掛けて、半導体Bに電圧を掛けなければOKです。
2個の半導体では4種類の情報量しか扱うことができません。
実際、パソコンやスマートフォンでは100億個以上の半導体が搭載されており、膨大な情報量を記憶できるメモリーであることが分かります。
半導体とは?(具体的)
最もメジャーな半導体の材料はシリコン(ケイ素:Si)という金属です。
シリコンは資源が豊富で容易に入手可能というメリットがあります。
シリコンは全ての元素の中でクラーク数が2番目に多いため、資源が豊富に存在することが分かります。
シリコンウェハとは、高純度のシリコンの結晶を円盤状に切り出したものです。
現在最も使用されているシリコンウェハのサイズは、直径:300mm(8インチ)、厚さ:1mmの円盤です。
このシリコンウェハの上に様々な処理(成膜、露光、エッチング等)を施すことで、”微細な電気回路”を形成することができます。
一般的に半導体とはシリコンウェハ上に”微細な電気回路”を形成したもののことを指します。
”微細な電気回路”とは、具体的にはトランジスタのことです。
トランジスタとは、”ON状態”と”OFF状態”を自由に切り替えること可能な素子です。
つまり、トランジスタを複数個使用することで、メモリーを構築することができます。
シリコンウェハ上により多くのトランジスタを搭載することが半導体業界の共通目標です。
小さい面積により多くのトランジスタを搭載することができれば、スマートフォンやパソコンをより小さく、より薄くすることが可能になります。
現状の半導体製造技術では、シリコンウェハ上に100億個以上のトランジスタを搭載することが可能です。
@電気工学
半導体をより深く理解するためには、電子/ホールの流れやエネルギーバンド図といった内容を理解する必要があります。
半導体製造装置って何?
半導体同様に半導体製造装置について深く理解しようとすると、大学レベルの講義内容になってしまうので、ここでは初心者の方にもイメージできるよう段階的に説明します。
半導体製造装置とは何か?の説明でいきなり成膜やエッチングといった工程の話から始めると理解が難いので、段階的に解説します。
半導体デバイスを製造するための装置
半導体製造装置とは、半導体デバイスを製造するための装置のことです。
半導体デバイスとは、スマートフォンなどに内蔵される樹脂ケースで覆われたICチップのことです。
樹脂ケースの中身は切断されたシリコンウェハです。
ちなみに半導体製造装置の価格は最低でも数千万円~数億円程度します。
私もメーカーで数億円の装置の開発を担当しています。
自分の生涯年収を全部注ぎ込んでも買えないんだろうなぁと思いながら開発してます。
ただエンジニアとして数億円の装置の開発に携われることはやりがいを感じます。
他の会社では経験できない半導体製造装置メーカーならではのメリットとだ思います。
シリコンウェハという半導体材料の上に大量のトランジスタを形成するための装置
トランジスタという、”ON状態とOFF状態”を自由に切り替えること可能な素子”をシリコンウェハ上に形成します。
シリコンウェハ上に高密度でトランジスタを形成できる半導体製造装置が性能の良い装置と言えます。
ちなみに現在の技術ではトランジスタ1個の大きさはは数十nm程度です。
”nm”という単位は半導体業界でないとなかなか聞かないと思います。
イメージとしては、髪の毛の太さの10万分の1程度です。
成膜装置やエッチング装置といったトランジスタを形成するための”一部の工程”を施すための装置
レベル2でシリコンウェハ上にトランジスタを形成する装置と説明しました。
実は1個の半導体製造装置だけではトランジスタを形成することはできないです。
シリコンウェハ上にトランジスタを形成するためには、約100工程(※デバイスによる)のプロセスを施す必要があり、数十種類の半導体製造装置が必要になります。
一言で「半導体製造装置」と言っても、成膜装置、露光装置、エッチング装置など様々な種類があるのです。
各々の半導体製造工程に適した半導体製造装置を選定する必要があります。
@電気工学
工程によりますが、半導体製造装置1台の部品点数は自動車3台以上と言われてます。
半導体ができるまでの工程
基本的に全ての半導体製造工程を理解する必要はないです。
現役で半導体製造装置メーカーに勤務している私でも全ての工程を理解しているわけではないです。
私に限らず、同じ部署の同僚や先輩でも全ての工程を理解している人はいないです。
あまり技術に関心が無い人だと自分が担当している装置の工程しか把握していないです。
全工程の半導体製造装置を作っているメーカーは存在しないので、理解する必要はないとも言えます。
それほど半導体製造工程は情報量が多く複雑ということです。
ここでは特に重要度の高い工程をピックアップして紹介します。
半導体関連企業への就職・転職を検討している場合、本記事に記載されている工程の概要は最低限把握しておきたいです。
まず、半導体製造工程は「前工程」と「後工程」に分別されます。
業界の市場規模的には「前工程」の方が大きく、半導体製造装置単体の価格も高いです。
「前工程」における重要な工程は以下です。
「後工程」における重要な工程は以下です。
@電気工学
半導体製造装置の重要工程の概要をざっくり説明しました。
半導体製造装置業界
半導体製造装置業界を知るにあたり重要なポイントをピックアップしました。
半導体製造装置メーカーは半導体デバイスを作らない
これは結構勘違いされやすいポイントです。
半導体製造装置メーカーは、あくまで半導体製造装置を販売することが目的で半導体デバイスは作りません。
半導体デバイスを作るのは”半導体デバイスメーカー”の役割です。
ここで一つの疑問が生まれます。
「半導体製造装置メーカーが半導体デバイスを製造/販売すれば、ボロ儲けできるのでは?何で半導体デバイスを製造/販売しないの?」
私も学生の頃はそう思ってました。
理由は「餅屋は餅屋(物事はそれぞれの分野の専門家に任せるのが良い)」です。
半導体デバイスを製造するには高い専門技術が必要です。
例えば、「どの工程の組み合わせにするのか?プロセス時の化学ガスは?温度は?時間は?」等様々なことを考慮する必要があり、専門的な知見の蓄積が必要です。
また、半導体製造装置メーカーは全ての工程の装置を製造しているわけではありません。
もし半導体製造装置メーカーが半導体デバイスを製造する場合、自社の保有工程以外の装置を他の装置メーカーから購入し、かつデバイスの製造工程を検討する必要があります。
これはかなりハードルが高いです。
各半導体製造工程に対応した様々な種類の半導体製造装置が存在する
一言で「半導体製造装置」と言っても、成膜装置、露光装置、エッチング装置など様々な種類があります。
また、たった一つの工程を担う”成膜装置”だけでも、成膜方法、薄膜の種類の数だけ装置のバリエーションがあります。
例えば、成膜方法には枚葉成膜(1枚のウェハを成膜)やバッチ成膜(複数のウェハを成膜)等、成膜方法に種類があり、別々の装置を設計する必要があります。
もちろん成膜装置に限らず、露光装置やエッチング装置も同様にバリエーションがあります。
全工程の半導体製造装置を作っているメーカーは存在せず、各メーカーでは一部の工程に特化して装置を製造/販売している
半導体製造装置は工程の数だけ、装置の種類があり、一つのメーカーだけで全ての工程の装置を開発することは不可能です。
そのため、各半導体製造装置メーカーで分業して各工程の装置を開発している状態です。
各半導体製造装置メーカーの保有工程をまとめました。
工程 | 日本メーカー | 海外メーカー |
---|---|---|
洗浄 | ・東京エレクトロン ・SCREEN | ・Lam Research |
成膜 | ・東京エレクトロン | ・Applied Materials ・Lam Research |
フォトレジスト 塗布 | ・東京エレクトロン ・SCREEN | – |
露光・現像 | ・NIKON ・Canon | ・ASML |
エッチング | ・東京エレクトロン | ・Applied Materials ・Lam Research |
ウェハ検査 | ・東京エレクトロン ・日立ハイテク | ・Applied Materials ・KLA |
ダイシング | ・DISCO ・東京精密 | – |
ワイヤー ボンディング | – | ・Kulicke&Soffa ・ASM |
モールディング | ・TOWA | ・ASM |
最終検査 | ・Advantest | ・TERADYNE |
表を見て分かる通り、半導体製造装置業界は日本メーカーが強いです。
日本の半導体製造装置メーカーの売り上げ首位は「東京エレクトロン」で世界では第3位です。
「東京エレクトロン」は複数の工程を保有していますが、特に”フォトレジスト塗布工程”が強く、世界シェア90%を超えます。
世界の半導体製造装置メーカーの売り上げ首位は米国の「Applied Materials」です。
「Applied Materials」も複数の工程を保有していますが、特に”成膜工程”に強いです。
成膜装置は、半導体デバイスを製造するにあたり、何台も必要になる装置で市場規模が特に大きいです。
そのため”成膜”に強い「Applied Materials」が業界首位なのです。
特に技術力が高い会社はオランダの「ASML」です。
「ASML」は露光・現像装置のみを開発/販売しており、この工程に関しては「ASML」の一強です。
露光・現像装置は半導体製造工程の中でも特に高い技術力が必要になり、かつ回路の微細化(トランジスタの集積度)はこの工程に依存します。
露光・現像装置では、レーザーを使用します。
オランダではレーザーの軍事研究が行われており、結果として露光・現像装置の技術力も高まったと言われています。
@電気工学
私が就活生のときは、「どの工程の装置を担当したいですか?」と聞かれたことがあります。自分が面接を受けるメーカー、競合の工程を把握しておく必要があります。
まとめ
- 半導体とは?
”シリコンウェハ”という金属の円盤上に”微細な電気回路”を形成したもの - 半導体製造装置とは?
成膜装置やエッチング装置といったトランジスタを形成するための”一部の工程”を施すための装置 - 半導体ができるまでの工程
「前工程」と「後工程」に分別され、成膜工程、エッチング工程、ダイシング工程など様々な工程が存在 - 半導体製造装置業界
全工程の半導体製造装置を作っているメーカーは存在せず、各メーカーでは一部の工程に特化して装置を製造/販売している