「半導体製造装置メーカーの仕事に自分の学部、職歴が活かせるのか知りたい」
「半導体製造装置メーカーに興味があり、どういった職種があるのか知りたい」
「実際に半導体製造装置業界で働いている人から仕事内容を聞きたい」
このような疑問に対して、半導体製造装置メーカーの現役エンジニアがわかりやすく解説します。
また、半導体製造装置メーカーの現役エンジニアからしか聞けない生の情報をお届けします。
@電気工学
ちなみに私はエレキエンジニアという職種です。
“電気回路設計”や”制御機能開発”を行ってます。
半導体製造装置メーカーの仕事内容
そもそも半導体製造装置とは、半導体デバイスを製造するための装置のことです。
半導体デバイスとは、スマートフォンなどに内蔵される樹脂ケースで覆われたICチップのことです。
半導体製造装置メーカーは、あくまで半導体製造装置を販売することが目的で半導体デバイスは作りません。
半導体デバイスを作るのは”半導体デバイスメーカー”の役割です。
この記事は半導体製造装置メーカーの仕事内容にフォーキャストした内容になってます。
多種多様な職種が存在しており、様々な学部出身者がいる
半導体製造装置の開発は技術力の総合格闘技です。
化学、物理、機械、電気、数学、情報、材料などの学問の幅広い知見が必要です。
そのため各半導体製造装置メーカーでは、プロセスエンジニア、メカエンジニア、エレキエンジニア、ソフトエンジニアなど多種多様な職種が存在しており、様々な学部出身者が在籍しています。
理系の学部出身者であれば、経験を活かせる職種があると思います。
ちなみにエンジニアは学部卒も院卒も両方いますが、同期は学部卒/院卒が半々程度でした。
中途採用者の割合が多く、様々な業界出身者がいる
半導体製造装置業界は、中途採用者の割合が多いです。
実際、私の職場では半数以上が中途採用者です。
“同じ半導体製造装置業界から転職してきた人”よりも”全くの別業界から転職してきた人”の方が多いです。
私の職場では”自動車メーカーの生産ラインを保守管理をしていた人”や”車載用通信機を開発していた人”が転職者として在籍しています。
別業界出身者を採用する理由は、技術イノベーションを意識していると聞いたことがあります。
半導体製造装置の開発は技術力の総合格闘技なので、様々な業界の知見を活かすことができます。
また多種多様な職種が存在しているので、前職の経験を活かすことも可能です。
エンジニアは各職種間でチームとなり、一つの装置を開発する
プロセスエンジニア、メカエンジニア、エレキエンジニア、ソフトエンジニアなど多種多様な職種が存在しますが、各職種のエンジニアが協力して1つの半導体製造装置を開発します。
例えば、装置開発にメカエンジニアしか参加してない場合、電気回路や制御ソフトを実装することができません。
装置開発では、様々な職種のエンジニアと密にコミュニケーションを取る必要があるので、自然と知見の幅が広がります。
私の職場では、”自分の職種の技術のみに特化したエンジニア”よりも”他職種の技術もある程度理解しているエンジニア”の方が評価されている印象です。
装置の価格は数千万円~数億円程度であり、やりがいがある
半導体製造装置の価格は最低でも数千万円~数億円程度します。
特に露光装置は高価で1台50億円する装置も存在します。
私もメーカーで数億円の装置の開発を担当しています。
「自分の生涯年収を全て注ぎ込んでも買えないんだろうなぁ」と思いながら仕事をしています。
ただエンジニアとして数億円の装置の開発に携われることにはやりがいを感じています。
これは他の業界では経験できない半導体製造装置メーカーの特徴と思います。
@電気工学
レアケースですが、教育学部出身のエンジニアもいました。
技術系職種(エンジニア系)
技術系職種(エンジニア系)の仕事内容を解説します。
また私の職場でどういった学部、職歴の方が活躍しているのかも合わせて紹介します。
プロセスエンジニア
仕事内容:装置のプロセス開発
プロセス開発とは、いわゆるプロセス性能(半導体の性能)を向上させるための開発です。
例えば、成膜装置のプロセス開発であれば、使用するガスの流量、温度などを検討し、シリコンウェハ上の膜の性能Upを図ったりします。
プロセス性能の良し悪しが半導体製造装置の売り上げに直結するので、花形の職種と言えます。
また長期間の出張も多いです。
客先に新規装置を納品する場合、プロセスエンジニアが数か月間現地に滞在して顧客をサポートします。
顧客は基本海外企業なので、海外で活躍したい人にはおすすめの職種です。
活かせる学部:化学、材料、応用物理など
活かせる学部は化学、材料、応用物理系です。
私の職場のプロセスエンジニアは特に化学系出身が多いです。
また私の感覚だと学部卒はほとんどおらず、9割以上は院卒です。
ちなみに私も新卒のときにプロセスエンジニアを受験しました。
化学を勉強していない電気工学系出身者にプロセス開発はできないと言われて、最終面接で落とされました。
プロセスエンジニアは花形の職種ということもあり、選考が結構厳しいです。
活かせる職歴:プロセス開発経験など
プロセスエンジニアの転職者は基本的に未経験者はいないです。
私の職場の転職者は競合他社でプロセス開発を経験してきた人がほとんどです。
プロセス開発は他の職種と比較しても特に専門的な知見が必要なため、未経験者を採用していないです。
メカエンジニア
仕事内容:装置の機械設計
メカエンジニアは、半導体製造装置の機械設計を行います。
具体的には以下です。
- 機械設計図面の作成
- 3D CADを使用した装置レイアウト検討
- 筐体の機械強度解析、ガスの流体解析、ヒーターの温度解析
- 搬送アームの製品化設計
メカエンジニアが主導で新規装置の開発を行うことが多いです。
また、機械設計業務のみではなく、完成した装置の評価を行うことも多いです。
机上解析では問題がなくても、実機で評価してみたら問題があったなんてことは良くあります。
活かせる学部:機械など
活かせる学部は機械系です。
私の職場のメカエンジニアの大半が機械系出身です。
学歴は学部卒:院卒=4:6程度の印象なので、学部卒だからって不利になることはないと思います。
活かせる職歴:3D CADの経験など
メカエンジニアはとにかく3D CADを使用します。
3D CADを用いた業務経験があればプラスになると思います。
実際、全くの別業界から転職してきた方でも3D CADの使用経験がある人が多かったです。
エレキエンジニア
仕事内容:装置の電気/制御設計
エレキエンジニアは、半導体製造装置の電気/制御設計を行います。
具体的には以下です。
- 電気回路図面の作成
- デジタル/アナログ電気回路設計
- 装置内通信仕様検討
- 装置の安全規格/EMC対応
電気回路図面の作成は2D CADで実施しますが、3D CADと比較して簡単なので未経験でも問題ないと思います。
半導体製造装置は操作を間違えると人体に重大な危害を加えるので、装置内の安全担保システム(インターロック)の開発もエレキエンジニアが実施します。
活かせる学部:電気電子など
活かせる学部は電気電子系です。
私の職場のエレキエンジニアは9割以上が電気電子系出身です。
学歴は学部卒:院卒=5:5程度の印象なので他職種と比較すると院卒の割合は低いです。
活かせる職歴:回路設計経験など
エレキエンジニアに転職する場合、回路設計の経験は必須です。
ただ基板設計やFPGA設計の経験までは求められないです。
また、半導体製造装置はEtherCAT通信という通信規格を使用しています。
特殊な通信方法なので、基本的に皆未経験で入社します。
ただEtherCAT通信の知見者であれば、プラスになると思います。
ソフトエンジニア
仕事内容:装置の制御ソフトの設計
ソフトエンジニアは、半導体製造装置の制御ソフトの設計を行います。
具体的には以下です。
- 装置制御ソフトのプログラミング
- 装置制御ソフトのデバッグ
- 制御スケジューラの設計
- AI機能開発
装置制御ソフトのプログラミング言語は各半導体製造装置メーカーにより異なります。
制御スケジューラとは、シリコンウェハの搬送に要する時間やプロセス処理時間などの様々な所要時間を予測し、効率的にウェハを処理する機能です。
制御スケジューラは、スループット(単位時間あたりに処理できるウェハ枚数)という装置性能に大きく影響するので重要な機能です。
活かせる学部:情報工学など
活かせる学部は情報工学系です。
私の職場のソフトエンジニアは9割以上が情報系出身です。
ただ、特定のプログラミング言語を使用できないとダメということはないです。
学歴は学部卒:院卒=5:5程度の印象です。
活かせる職歴:回路設計経験など
ソフトエンジニアに転職する場合、プログラミングの経験は必須です。
また半導体製造装置業界全体として、AI機能開発が流行ってます。
例えば、モーターが故障する直前の電流値や音声波形などのデータを蓄積することで、モーターの異常を事前に検知する機能などがあります。
一枚一千万円程度のウェハがある中で、異常を事前に検知できれば、無駄になるウェハが減るので重要な機能です。
AI機能開発の経験があれば、プラスになると思います。
フィールドエンジニア
仕事内容:装置出荷後の現地サポート
フィールドエンジニアは、半導体製造装置の出荷後の現地サポートを行います。
具体的には以下です。
- 出荷装置の客先立ち上げ
- 出荷装置のトラブル対応
フィールドエンジニアは基本的に顧客の工場近くに勤務することになります。
出荷装置全般をサポートする必要があるため、各職種の知見を広く理解しているゼネラリストである必要があります。
また顧客と対面でやり取りを行うため、ある程度のコミュニケーション能力も必要です。
活かせる学部:理系学部全般
活かせる学部は理系学部全般です。
ゼネラリストである必要があるので、特定の学部出身である必要はないです。
私の周りのフィールドエンジニアは結構車イジリが好きな人が多いです。
機械イジリが好きな人にはおすすめの職種です。
学歴は学部卒もいれば、院卒もいます。
活かせる職歴:エンジニア全般
フィールドエンジニアに転職する場合、エンジニアの経験が必要です。
また顧客と交渉する機会も多いので、社会人として普通レベル以上のコミュニケーション能力も必要です。
セールスエンジニア(営業)
仕事内容:顧客への装置販売
セールスエンジニアは、いわゆる営業のことで主に顧客に半導体製造装置を販売します。
具体的には以下です。
- 半導体製造装置の販売
- 顧客との交渉
- 新製品の企画
半導体製造装置を販売する顧客は海外メーカーが多いです。
そのためセールスエンジニアは海外出張がとにかく多いです。
私の会社のセールスエンジニアは日帰りで韓国出張をしている人もいました。
半導体製造装置の販売だけではなく、次世代装置の企画も行います。
セールスエンジニアは顧客の要求を聞く機会が多いので、市場で求められている装置仕様を把握するこことができます。
顧客要求を設計エンジニアに展開することで、次世代装置の開発が始まります。
また顧客と対面で交渉する機会が多いため、コミュニケーション能力は必須です。
活かせる学部:文系/理系学部全般
活かせる学部は文系/理系学部全般です。
私の職場のセールスエンジニアは、理系学部出身者の方が多い印象です。
学生時代に半導体の研究をしていた人もいれば、全く関係のない研究をしていた人もいます。
顧客に半導体製造装置の説明をする必要があるため、ある程度理系の知識が必要です。
文系出身者も入社してから勉強する必要があります。
活かせる職歴:半導体業界の経験
セールスエンジニアに転職する場合、半導体業界の経験があることが望ましいです。
エンジニアから営業に転向する人もいるので、営業の経験は必須ではないと思います。
製造エンジニア
仕事内容:装置の組立/検査
製造エンジニアは、半導体製造装置の組立/検査を行います。
半導体製造装置は仕様のバリエーションや部品点数が多く、製造自動化は進んでいません。
そのため、人の手で装置を組み立てる必要があります。
製造はとにかく身体を使う仕事なので、作業が好きな方におすすめの職種です。
活かせる学部:高卒以上
活かせる学部は高卒以上です。
私の職場の製造エンジニアは、ほとんどが高卒出身者です。
半導体製造装置の組立工場は地方に多く、地元の高校を卒業した人がそのまま工場に就職することが多いです。
活かせる職歴:半導体業界の経験
製造エンジニアに転職する場合、ものづくりの経験があることが望ましいです。
@電気工学
私の職場ではどの職種でも給与は変わらないです。
学歴(高卒、学部卒、院卒)で初任給が変わります。
まとめ
- 半導体製造装置メーカーの仕事内容
–多種多様な職種が存在しており、様々な学部出身者がいる
–中途採用者の割合が多く、様々な業界出身者がいる
-エンジニアは各職種間でチームとなり、一つの装置を開発する
–装置の価格は数千万円~数億円程度であり、やりがいがある - プロセスエンジニア
仕事内容:装置のプロセス開発
学部:化学、材料、応用物理など
活かせる職歴:プロセス開発経験など - メカエンジニア
仕事内容:装置の機械設計
活かせる学部:機械など
活かせる職歴:3D CADの経験など - エレキエンジニア
仕事内容:装置の電気/制御設計
活かせる学部:電気電子など
活かせる職歴:回路設計経験など - ソフトエンジニア
仕事内容:装置の制御ソフト設計
活かせる学部:情報工学など
活かせる職歴:プログラミング経験など - フィールドエンジニア
仕事内容:装置出荷後の現地サポート
活かせる学部:理系学部全般
活かせる職歴:エンジニア全般 - セールスエンジニア(営業)
仕事内容:顧客への装置販売
活かせる学部:文系/理系学部全般
活かせる職歴:半導体業界の経験 - 製造エンジニア
仕事内容:装置の組立/検査
活かせる学部:高卒以上
活かせる職歴:ものづくりの経験